なぜ日本の学生は掃除をするのか?|“自分たちの場所は自分で守る”教育の本質

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なぜ日本の学生は掃除をするのか?|“自分たちの場所は自分で守る”教育の本質

海外の教育関係者や観光客が日本の学校を訪れて最も驚く光景のひとつ。
それが、学生たちが自分たちで掃除をしている姿です。

教室、廊下、トイレ、昇降口…
掃除の時間になると、児童たちはほうきや雑巾を手に、黙々と学校中を掃除し始めます。

日本では当たり前のこの習慣。しかし、世界的には非常に珍しい教育文化の一つです。
この記事では、なぜ日本では子どもが掃除をするのか?その背景と意味を深掘りしていきます。

掃除=罰ではない。日常に根づく“当たり前の教育”

多くの国では、掃除は専門の清掃スタッフの仕事です。
一部では、掃除が“反省”や“罰”として用いられるケースもあります。

しかし日本では、掃除は日々の教育活動の一環として位置づけられています。

掃除の時間は、多くの公立小学校で毎日15〜20分程度確保されており、当番制で役割が振り分けられます。

  • 教室を担当する子
  • トイレや階段を担当する子
  • 雑巾がけ係やゴミ収集係

誰かが命令するわけではなく、子どもたち同士で分担し、協力して進めるのが一般的です。

掃除をさせる理由は?文部科学省の教育方針

日本の学校教育では、掃除の時間を通して「責任感」「公共心」「勤労の尊さ」を育むことが目的とされています。

これは明確に、文部科学省の学習指導要領にも記載されています。

日常生活の中で、身の回りの整理整頓や清掃を行う活動を通して、公共心や協働の大切さを学ばせることが望ましい。

つまり、掃除は単なる労働ではなく、人格形成を促す教育の一部とされているのです。

掃除を通して身につく“見えない力”とは

教師や保護者の間では、掃除を通じて次のような力が育まれると考えられています。

  • 責任感:自分の担当場所は自分で綺麗にする
  • 協働性:友達と声をかけ合って取り組む
  • 公共心:皆が使う場所は皆で守るという意識
  • 観察力:どこが汚れているかに気づく習慣

これらはテストの点数には現れないものの、社会生活を営むうえで不可欠な“人間力”だと言えるでしょう。

“掃除の時間”は道徳教育の実践の場でもある

日本では、掃除=教育の一環であるという考えが強く、道徳教育とのつながりも重視されています。

たとえば、次のような教育効果があるとされています:

  • 「物を大切にする心」が育つ(机や床を傷つけないように扱う)
  • 「感謝の気持ち」が芽生える(掃除があることで清潔が保たれていることに気づく)
  • 「気づき」が増える(他人の役割や苦労に目が向く)

これは机上の学びではなく、体験によって“感じる力”を育てる道徳教育の典型例とも言えます。

次のパートでは、世界との比較や、日本で育まれた「自分たちの場所を自分で守る」意識が、社会全体にどう波及しているのかを詳しく見ていきます。

“掃除を通じて育つ力”は、社会の中でも活きている

掃除をするのは子どもの仕事?海外との文化的ギャップ

世界的に見ると、「子どもが学校で掃除をする」という文化はかなり珍しく、日本、台湾、シンガポールなどの一部アジア諸国に限られます。

たとえば:

  • アメリカ:校内清掃はすべて清掃員が担当。掃除=労働という感覚が強い
  • ヨーロッパ:衛生管理は学校の責任。子どもに掃除をさせること自体に疑問の声も
  • インド・中東:一部では家庭の教育の一部として掃除習慣があるが、学校では基本的に行われない

そのため、日本の「掃除を教育として行う」文化は、しばしば“奇妙だけど理にかなっている”と評価されます。

“自分たちの場所を自分で守る”という自治意識

掃除を日常的に経験することで、子どもたちの中には「場に対する責任感」が自然と育ちます。

これは、授業で教え込むよりも実体験によって身につく“行動としての倫理”とも言えるものです。

さらに、掃除をチームで行うことにより、「他人任せにせず、協力し合う力」が培われる点も大きな特徴です。

学校の外でも表れる“清掃教育”の効果

この文化は、大人になってからも日本人の所作や価値観に深く影響しています。

  • 職場のデスクを毎日整える習慣
  • 公園やキャンプ場を「来た時よりきれいに」して帰る姿勢
  • 災害ボランティアでのゴミ分別・清掃の徹底

海外メディアでも、「サッカー日本代表のサポーターがスタジアムを清掃する」行動が注目され、「日本の学校教育に由来している」と報道されることがあります。

一方で課題も。時代に合わせた見直しも必要?

この伝統的な清掃文化には、現代の視点からいくつかの課題も指摘されています。

● 教員の指導・監督負担

掃除指導は教科授業と同じく“教育の一環”とされますが、教師側の負担が大きいことも問題視されています。

● 清掃の質・衛生管理とのバランス

子どもの手による清掃には限界もあり、衛生面で十分とは言えない場面も。感染症対策の観点から再検討の動きも出ています。

● 性別による役割分担が残っているケースも

昔ながらの“男子は外・女子はトイレ”のような役割分担が残っている地域もあり、ジェンダー意識の更新が必要とされています。

まとめ|掃除が教えるのは「知識」ではなく「態度」

日本の小学生が掃除をするという習慣は、単なるしつけでも労働でもありません。
それは、“自分たちの場所を自分たちで守る”という生き方そのものを育てるための、非常に実践的な教育なのです。

無言で床を拭く時間に学んでいるのは、他人への思いやり、社会の一員としての意識、手を動かすことで生まれる気づき
テストでは測れない、でも確実に生きていくうえで大切な「力」が、そこには育まれています。

未来に向けて、掃除の在り方も少しずつ変化していくかもしれません。
しかしこの文化が持つ「教育としての力」は、きっとこれからも色あせることはないでしょう。

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